特別編|福島の酒どころを読み解く|GI南会津・GI喜多方とは?
日本酒の地理的表示「GI」とは?
日本酒ファンの方であれば、「福島の酒」が全国新酒鑑評会で何度も金賞受賞数日本一に輝いていることをご存じかもしれません。
その圧倒的な品質の高さで知られる福島県において、令和6年(2024年)、日本酒の歴史に新たな1ページが加わりました。
それが、「GI南会津」と「GI喜多方」という2つの地理的表示(GI:Geographical Indication)の誕生です。
今回の記事では、福島県で初めて認定されたこの2つのGIが、それぞれどのような個性(テロワール)を持ち、どのような味わいの日本酒を生み出しているのか、「GI」という新たな視点から、その魅力を紐解いていきます。
GI制度とは?──日本酒版「ボルドー」「シャンパーニュ」
「ボルドー」や「シャンパーニュ」など、ワインのラベルに記載された地名を見かけたことがある方も多いでしょう。これらは、単なる地名ではなく、“その土地で造られ、厳しい基準を満たしたものだけが名乗れる”ブランド名称です。
この仕組みと同じものが、日本酒にも導入されています。それが、日本の国税庁が定める「地理的表示(GI)制度」です。
GIに認定されるということは、そのお酒が「正真正銘、地域の風土が育てたブランド酒である」という証です。GIマークがラベルに表示されている日本酒は、その土地の米・水を使い、一定の品質基準をクリアし、厳正な審査を経て認められたものです。
これまで「福島の酒」という括りで語られてきた福島県産酒が、今後は「南会津らしさ」「喜多方らしさ」といった、地域の個性=テロワールで語られる時代へと進んでいるのです。
GI南会津|豪雪と超軟水が育てる「やわらかく癒やしの酒」
福島県で初のGI認定エリア
2024年8月、福島県内で最初にGI指定を受けたのが「GI南会津」です。特筆すべきは、「南会津町」単独でのGI指定である点。これは全国でも極めて珍しいケースです。
雪国ならではの酒造りと「超軟水」
南会津町は、日本屈指の豪雪地帯。数メートルの積雪がある冬、この雪が酒蔵全体を包み込み、天然の断熱材となって蔵内を安定した低温環境に保ってくれます。
さらに、当地で湧き出る水は、ミネラル分が非常に少ない「超軟水」。硬水は酵母の発酵を活発にしてシャープな味わいになりますが、軟水は酵母の動きを穏やかにし、ゆっくりと発酵を進めるため、柔らかで滑らかな味わいを生み出します。
南会津の味わい──芳醇でやさしい「旨口」
GI南会津の酒は、「口当たりのやわらかさ」と「優しい甘み」が最大の魅力。雪解け水のようにふわりと広がり、リンゴやメロンのような果実香が優しく鼻を抜け、後味はスッとキレていきます。
4つの酒蔵(国権酒造、会津酒造、花泉酒造、開当男山酒造)はすべてGI認定蔵元。中でも花泉酒造の「もち米四段仕込み」は、全国的にも珍しい製法で、南会津の酒に“癒やしの余韻”を与えています。
GI喜多方|伏流水が生む「芳醇な旨味」と食を引き立てるキレ
「蔵のまち」喜多方と西会津が対象エリア
GI南会津に続き、2024年12月に認定されたのが「GI喜多方」。対象は喜多方市とその隣の西会津町です。
喜多方といえば、ラーメンと並んで有名なのが「蔵の街並み」。市内には10軒の酒蔵が点在し、長年にわたり発酵文化が根付いてきました。
「飯豊山の伏流水」がもたらす特有のコクとキレ
GI喜多方の個性を形作っているのは、飯豊連峰などの山々から流れる伏流水です。この水も軟水ですが、地層を通ることでまろやかさが増し、酒にコクと透明感ある後味を与えています。
喜多方の味わい──旨味×キレ、食中酒の理想形
GI喜多方の日本酒、特に純米酒は、芳醇な米の旨味をしっかりと感じさせながら、後口はすっきりとキレるのが特徴です。吟醸香もありつつ、甘さが残らないため、香りと飲みやすさのバランスに優れています。
この「キレの良さ」は、素材の味を引き立てる料理と合わせたときに真価を発揮します。味付けの濃淡に左右されにくく、さまざまな食事シーンで食中酒として活躍する懐の深さを備えています。
全国的にも知られる蔵元(ほまれ酒造、夢心酒造、大和川酒造店)も、このGIブランドのもとで、地域の魅力を体現する酒造りに一層力を入れています。
GI南会津とGI喜多方──味わいと認定基準の比較
| 比較項目 | GI南会津 | GI喜多方 |
|---|---|---|
| 味わい | やわらかく優しい甘み。ゆったりとした時間に最適 | 芳醇な旨味と爽快なキレ。食事との相性抜群 |
| 個性 | 豪雪地と超軟水による穏やかな発酵 | 伏流水と伝統が生むバランスの良い食中酒 |
| 対象地域 | 南会津町 | 喜多方市・西会津町 |
共通する厳格なGI認定基準
両GIには、共通して以下のような厳しい要件が設けられています:
- 原料米:指定地域内で収穫された等級米を使用
- 仕込み水:地元の水のみを使用
- 醸造工程:醸造から瓶詰めまで地域内で完結
- 品質審査:官能審査(テイスティング)で合格したもののみGI認定
つまり、GIマークのついたボトルは、プロの審査員が「その土地らしい味」と認めた酒であるといえるのです。
GIが切り開く、福島の日本酒の未来
今回の2つのGI認定は、福島の日本酒文化にとって「ゴール」ではなく「スタート」です。
これまで「美味しい福島の酒」と一括りにされていたものが、今後はワインのように、
- 「今日は南会津のやわらかい酒をじっくり味わおう」
- 「今夜は喜多方のキレのある酒で食事を楽しもう」
と、“産地で選ぶ”スタイルへとシフトしていくことでしょう。
さらに、GI制度は国際的にも信頼されるブランド規格。ヨーロッパや北米では「原産地保証」による高付加価値が重視されるため、今回のGI認定は輸出やインバウンド観光への強力なパスポートとなります。
今夜は「テロワールで選ぶ福島の酒」を
現地の水、米、技、空気、それぞれの土地の“風土”が育んだ味わいを、GIというマークが教えてくれます。
ぜひ今夜は、「GI南会津」や「GI喜多方」のラベルが貼られた一本を手に、その土地の風景に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。



