【第1回】福島の酒どころを読み解く|会津若松編:城下町と会津盆地の風土が銘酒を生む理由
江戸時代から続く「酒どころ」会津若松に酒蔵が多い理由
会津若松市は、福島県西部の会津盆地の中央に位置する、歴史ある城下町です。江戸時代には鶴ヶ城の城下町として栄え、会津藩の庇護のもと、早くから酒造業が発展しました。祭礼や日々の暮らしに欠かせない酒は、地元の需要を支える生活の必需品であり、商業の中心としても機能していたこの街には、自然と多くの蔵元が育まれていったのです。
さらに地理的にも、会津若松は酒造りに理想的な条件が揃っています。四方を山に囲まれた会津盆地では、冬に積もった雪が春には豊富な雪解け水となって河川や地下水を潤し、仕込み水として清らかで雑味の少ない水をもたらします。また、冬の厳しい寒さは低温発酵に適しており、夏の暑さは酒の熟成を促すなど、四季の寒暖差が大きいことも、良質な酒米の栽培と酒造りの両面において有利に働いています。
こうした自然条件と城下町としての歴史が融合した会津若松には、現在でも市内および周辺に10軒近い酒蔵が集まり、それぞれが個性豊かな銘酒を造り続けています。「酒どころ会津若松」という呼び名は、まさにこの土地が育んできた伝統と風土の賜物といえるでしょう。
地元酒米へのこだわり——夢の香、五百万石
会津若松の多くの酒蔵では、福島・会津で栽培された酒造好適米を中心に、この土地の風土を活かした酒造りが行われています。
中でもよく使われているのが、「五百万石」と「夢の香」という2つの酒造好適米です
「五百万石」は、北陸や東北地方で広く栽培されている代表的な品種で、淡麗ですっきりとした酒質に仕上がるのが特徴です。米粒が硬く溶けにくいため雑味が出にくく、キレのある吟醸酒に向いています。
一方、福島県が開発した「夢の香」は、大粒で心白の発現率が高く、高精白にも耐えられることから、大吟醸クラスの酒造りにも適しており、やわらかな旨味が特徴です。
このように、会津若松の酒蔵では、それぞれの米の特性を活かしながら、個性豊かな酒が醸され続けています。
酒質を決める名水の存在——伏流水が支える清らかな味わい
「日本酒の約80%は水でできている」と言われるように、仕込み水の質は酒の味わいを大きく左右します。会津若松は、飯豊連峰や磐梯山系に囲まれ、豊富な雪解け水が地下に浸透する地形に恵まれており、良質な地下水が各蔵で仕込み水として活用されています。
市内の多くの蔵で軟水に近い地下水が使われていますが、宮泉銘醸のように灘の宮水に近い硬度の高い水を活かす蔵もあります。
末廣酒造では複数の井戸から汲み上げる地下水を使用しており、柔らかな口当たりとキレのある酒質が特徴です。鶴乃江酒造では、蔵内の井戸から湧き出る水を仕込みに用い、酒銘「会津中将」のすっきりとした飲み口を支えています。
このように、会津の名水は各蔵の個性を引き出し、その味わいに大きな役割を果たしています。
名蔵元がひしめく——会津若松の代表的な酒蔵と銘柄
会津若松には、歴史と革新を併せ持つ魅力的な蔵元が点在しています。
・末廣酒造(1850年創業):嘉永蔵を有し、観光スポットとしても人気。「末廣」や「玄宰」など、伝統を感じさせる銘柄を展開。
・宮泉銘醸(1955年創業):「寫樂(写楽)」で全国区の人気を誇る蔵元。地元銘柄である「宮泉」も人気を博している。
・鶴乃江酒造(1794年創業):「会津中将」で知られ、女性杜氏が造る芳醇旨口の酒が高評価。
・辰泉酒造(1877年創業):酒造好適米「京の華」復活で話題を呼ぶ。「辰泉」「会津流」など高品質な酒を少量生産。
・高橋庄作酒造店(1875年創業):「会津娘」は地元米と昔ながらの製法を守る、濃醇な米の旨味が特徴の酒。
・花春酒造(1718年創業):「花春」をはじめ、女性杜氏ならではの香り優しく、口当たりの柔らかい酒を醸している。
この他にも、名倉山酒造や山口合名会社など、個性豊かな蔵がそろい、味わいの違いを飲み比べる楽しさがあるのも、会津若松の魅力のひとつです。
技術と革新、観光と結びつく会津の酒文化
会津若松の酒造りは、長年培われた伝統の技と、新しい発想や技術を取り入れる柔軟さの両立によって進化を続けています。たとえば、創業200年以上の歴史を持つ鶴乃江酒造では、杜氏として女性が陣頭に立ち、全国新酒鑑評会でも高い評価を獲得。男性中心の業界に新風を吹き込んでいます。また、宮泉銘醸では“寫樂”ブランドを通じて、会津産米と福島酵母を用いた「地元素材×現代感覚」の酒造りに取り組み、全国的な人気銘柄へと成長させました。
技術的にも、福島県酒造協同組合と県ハイテクプラザによる酵母開発や、醸造研修機関による若手蔵人の育成など、体系的な支援が整っています。福島県全体として、全国新酒鑑評会では9年連続で金賞受賞数日本一を達成しましたが、そのうち多くの受賞蔵が会津若松・会津地域に集中しており、技術水準の高さを裏付けています。
さらに、酒造文化を地域の観光資源として活かす取り組みも進んでいます。会津若松市は「會津清酒で乾杯!」条例を制定し、日本酒の日(10月1日)には市内各所でイベントを開催。末廣酒造の「嘉永蔵」など見学可能な蔵では、伝統的な蔵の造りや仕込み道具を間近に見学でき、観光客向けに試飲体験や限定酒の販売も行われています。また、地元観光協会や飲食店が連携し、地酒の飲み比べマップの配布、地酒と郷土料理のペアリング企画なども実施されています。
このように、会津若松の酒文化は、歴史と革新、技と人、そして暮らしと観光が有機的につながることで成り立っています。ただ銘酒を造るだけでなく、その背景にある土地の文化・人の営み・挑戦の積み重ねこそが、全国の酒好きの心を掴んでいるのです。
郷土料理とともに味わう会津の銘酒
会津の郷土料理は、濃いめの味付けと素材の旨味を活かしたものが多く、地酒との相性は抜群です。例えば「こづゆ」「にしんの山椒漬け」「棒鱈煮」「味噌田楽」などは、それぞれの風味が地酒の旨味と調和し、互いを引き立て合います。
また、祝いの席では、手打ちそばやわっぱ飯など、季節や場面に応じた伝統料理が並びます。そうした食卓には、地元の地酒が欠かせません。まろやかな口当たりとふくらみのある旨味を持つ会津の酒は、料理とともに味わうことで、その魅力がいっそう際立ちます。
まとめ
歴史ある城下町・会津若松は、長きにわたり日本酒文化の中心地として発展してきました。盆地特有の地形や厳しい寒暖差、豊富な雪解け水、そして良質な米という自然条件に加え、代々受け継がれてきた職人の技が結びつくことで、この地ならではの個性豊かな銘酒が育まれています。
さらに、観光と地酒が連動したまちづくり、若い蔵人たちの活躍、そして革新的な技術や酒米への挑戦など、伝統と進化が共存するのも会津若松の大きな魅力です。まさに、ここは“酒都・会津若松”と呼ぶにふさわしい場所だと言えるでしょう。
次回は、第2回|喜多方編 「蔵のまち」に地酒と発酵文化が根づいた理由 をお届けします。