【第3回】福島の酒どころを読み解く|南会津編 豪雪と軟水が地酒をおいしくする理由

【第3回】福島の酒どころを読み解く|南会津編 豪雪と軟水が地酒をおいしくする理由

第3回は、雪深い山あいの町「南会津町」が舞台です。なぜこの土地には酒蔵が多いのか? どのような水や米が、まろやかな味わいを生み出しているのか? 南会津の自然や文化、受け継がれる技とともに、その秘密を紐解いていきます。

厳しい冬がもたらす理想の環境

福島県南西部に位置する南会津町は、標高の高い山々に囲まれた豪雪地帯です。冬には気温が氷点下20℃近くにも達することもあるほど厳しい寒さに見舞われ、積雪量も非常に多い地域として知られています。実はこの自然環境こそが、日本酒造りに理想的な条件を整えているのです。

厳冬期の低温は、発酵をゆっくりと進めるための安定した環境を保ち、酒造りに欠かせない要素のひとつです。さらに、積もった雪は天然の断熱材となって蔵内の温度変化を抑え、繊細な発酵管理をしやすくしてくれます。蔵人たちは、この自然の力を巧みに活かしながら、丁寧な酒造りを行ってきました。

春になると、山々に積もった雪がゆっくりと溶け出し、清らかな伏流水となって地域の水源を潤します。この雪解け水はミネラル分が非常に少ない“超軟水”であり、口当たりのやわらかい、雑味の少ない日本酒を仕上げるうえで欠かせない存在です。

また南会津は、江戸時代には幕府直轄の「天領」として独自の文化が育まれた歴史ある土地でもあります。元禄年間に創業した酒蔵が今なお酒を醸し続けていることからも、この地での酒造りの伝統がいかに長く受け継がれてきたかがうかがえます。

そして2024年には、南会津で造られる清酒が「南会津(清酒)」として地理的表示(GI)の指定を受けました。地元で育てた米と水のみを使って仕込む地酒が、南会津の風土とともに全国的にも高く評価されている証といえるでしょう。

南会津の地酒を支える酒米

南会津で使われる酒米には、この地域の気候や風土を反映した品種が多くあります。なかでも代表的なのが、福島県が開発した酒造好適米「夢の香(ゆめのかおり)」です。寒冷地でも安定して栽培でき、心白の発現が良好で吸水性・溶けやすさに優れるため、吟醸酒にも用いられる酒米として南会津の蔵元でも広く採用されています。

たとえば、国権酒造の「夢の香 特別純米」は、地元産の夢の香を100%使用し、果実を思わせる華やかな香りとやわらかな旨みを兼ね備えた逸品です。

このほか、新潟生まれの「五百万石」も多くの酒蔵で使われています。淡麗ですっきりとした酒質になりやすい品種ですが、南会津のやわらかな軟水と組み合わせることで、より一層優しい甘みと繊細な味わいが引き出されます。花泉酒造では、夢の香と五百万石を併用し、香り・味・キレのバランスがとれた奥行きある酒を目指しています。

さらに近年は、県オリジナルの新品種『福乃香』を使った純米大吟醸なども仕込まれており、オール福島・オール南会津の酒造りが一段と進んでいます。

地酒の味わいを支える「水」のちから

南会津の日本酒の味わいを語るうえで、水の存在は欠かせません。南会津は、阿賀川や伊南川の源流域に位置し、山々に降り積もった雪が春になるとゆっくりと溶け、清らかな伏流水となって豊富な水資源をもたらしています。

この地域の地下水は、ミネラル分がきわめて少ない「超軟水」に分類されるやわらかな水です。この水を仕込み水に用いることで、発酵は穏やかに進み、口当たりのなめらかな日本酒が生まれます。

実際、南会津の地酒には、舌にやさしく、米の甘みがじんわりと広がる酒質のものが多く見られます。香りは派手すぎず、落ち着きのある華やかさを備えているのも特徴です。

たとえば会津酒造では、敷地内の地下40メートルから汲み上げる伏流水を仕込みに使用し、「山の井」ブランドで知られる繊細で美しい酒を醸しています。また、国権酒造や開当男山酒造も奥会津の雪解け水を活かし、それぞれの蔵らしい個性ある酒を生み出しています。

いずれの蔵も、この水の恵みを何よりも大切にし、それぞれの酒質に活かすことで、南会津ならではの味わいを守り続けているのです。

南会津を代表する酒蔵と銘柄

  • 開当男山酒造(1716年創業):江戸時代に創業し、南会津の寒冷な気候を活かした手作りの酒造りを続ける蔵。代表銘柄「開当男山」は澄んだ香味とキレが特徴。

  • 会津酒造(1688年創業):「會津」と「山の井」の2つのブランドを展開。敷地内の超軟水を使い、伝統と革新を併せ持つ酒造りで注目される蔵元。

  • 国権酒造(1877年創業):「正直な酒造り」をモットーに、普通酒は造らず特定名称酒のみを扱うこだわりの蔵。代表銘柄「大吟醸 国権」は多くの受賞歴を持つ。

  • 花泉酒造(1920年創業):「もち米四段仕込み」という独自製法を守り続ける蔵。代表銘柄「花泉」、人気シリーズ「ロ万(ろまん)」などで知られ、地酒ファンに根強い人気を誇る。

地酒を大切にする風土が息づく、南会津の酒文化

南会津では、日本酒を地域の誇りとして大切にする文化が根づいています。

その象徴とも言えるのが、2013年に制定された「南会津町乾杯条例」です。宴会や行事の最初の乾杯には、地元の日本酒を使うことが推奨されており、町内に4つの酒蔵を有する地域ならではの誇りと愛着が表れています。毎年6月には、町内4蔵元の酒がふるまわれる「南会津の日本酒で乾杯!」イベントも開かれ、住民と観光客が一緒になって地酒を楽しむ機会が設けられています。

また、豪雪地帯という地域特性を活かした「雪中貯蔵酒」の取り組みや、南会津の自然や郷土料理と地酒を組み合わせたペアリングイベントなど、新しい酒の楽しみ方も広がりを見せています。

自然とともに生きる暮らしの中で育まれ、地域の行事や食と結びつきながら親しまれてきた南会津の地酒。その文化は、伝統を大切にしながらも新たな価値を取り入れ、これからの時代へと確かに受け継がれています。

次回、最終回となる第4回は、安達太良山のふもとに酒蔵が集まる「二本松編」をお届けします。城下町と名水が育んだ地酒文化を通して、福島の“酒どころ”の物語を締めくくります。どうぞお楽しみに。


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