【第4回】福島の酒どころを読み解く|二本松編:安達太良山の名水と城下町が酒どころになった理由

【第4回】福島の酒どころを読み解く|二本松編:安達太良山の名水と城下町が酒どころになった理由

城下町・二本松に根づく酒造文化の背景

福島県中通りに位置する二本松市は、江戸時代に二本松藩十万石の城下町として栄えた歴史ある地域です。人口の多さと商工業の発展により、早くから酒の需要が高まり、藩政期から酒造業が盛んに営まれてきました。明治から大正にかけては現在よりも多くの酒蔵が軒を連ねていたとされ、二本松は福島県内でも有数の「酒どころ」として知られるようになりました。

こうした酒造文化の背景には、地理的条件の恵みも大きく関わっています。市街地は名峰・安達太良山の麓に広がる扇状地にあり、山から流れ出る清らかな伏流水に恵まれています。また、阿武隈川流域の穏やかな気候と昼夜の寒暖差によって、良質な米が育つ土壌環境も整っています。水と米の両方に恵まれた土地が、自然と酒造業の発展を後押ししてきたのです。

明治以降には、郡山方面との鉄道開通によって物流が発展し、二本松は県内外を結ぶ交通の要衝となりました。これにより、地元消費にとどまらず広域市場への展開が可能になり、蔵元たちは技術と品質の向上にいっそう注力するようになりました。

「オール福島」へのこだわりと使用酒米の多様性

二本松の蔵元が使用する酒米には、「五百万石」「美山錦」といった定番品種に加え、福島県オリジナルの「夢の香」「福乃香」があります。中通り地域は会津地域ほどの積雪はありませんが、日照と気温のバランスに優れており、酒米の栽培に適した地域です。

「美山錦」は長野県で誕生した品種で、耐冷性に優れ、爽やかな香りとすっきりした味わいが特徴です。純米吟醸や大吟醸酒に多く使用され、繊細な酒質を実現します。「五百万石」は新潟生まれの酒造好適米で、淡麗でキレのある辛口の酒に仕上がりやすく、安定した醸造適性から全国的にも高い支持を得ています。

福島県オリジナルの「夢の香」は2003年に品種登録された酒米で、華やかな香りと柔らかな旨みが特徴です。多くの蔵元で吟醸酒や純米吟醸酒に採用されています。さらに2019年に登録された「福乃香」は、山田錦系統の系譜を持ち、吟醸香と透明感ある味わいを兼ね備えた期待の品種です。奥の松酒造をはじめ、県内の有力蔵で既に本格的な仕込みに使用されています。

これらの酒米はいずれも福島県内の契約農家と連携して栽培されており、原料の段階から「オール福島」の地酒づくりに取り組む姿勢が、二本松の蔵元に共通しています。

安達太良山の伏流水が育む“深みとキレ”

日本酒の味を大きく左右する仕込み水。二本松の蔵元が用いるのは、安達太良山の麓から湧き出す清冽な伏流水です。山に降った雪や雨が長い年月をかけて地中を流れ、ミネラルバランスの整った中軟水となって地表に現れます。

この名水により、発酵は穏やかに、かつ力強く進み、米の旨味と香りを引き出す酒質が生まれます。奥の松酒造では、森の中の自社水源から水を引き入れ、その清らかさを活かした酒造りを行っています。人気酒造や檜物屋酒造店も、地下水を汲み上げ、自然の恵みをそのまま仕込み水として用いています。

特に注目したいのが、大七酒造が使用するやや硬度の高い水です。この水は伝統的な生酛(きもと)造りとの相性が良く、しっかりとした酒母を育て、コクと旨味に富む濃醇で奥深い味わいの酒に仕上がります。

四蔵四様——多彩な個性をもつ蔵元たち

現在、二本松で操業を続ける酒蔵は以下の4蔵です。それぞれが独自の理念と技術を持ち、地元に根ざした酒造りを続けています。

  • 奥の松酒造(1716年創業) 300年以上の歴史を持つ老舗でありながら、スパークリング清酒やリキュールなどの新商品開発にも積極的。代表銘柄「奥の松 あだたら吟醸」は、IWC(インターナショナル・ワインチャレンジ)にて「チャンピオン・サケ」を受賞した経歴を持つ、世界的にも評価の高い逸品です。

  • 大七酒造(1752年創業) 「生酛の大七」として全国に名を馳せる蔵元。独自開発の「超扁平精米」技術で雑味を削ぎ落とし、伝統製法と革新を融合した濃醇旨口の酒を生み出しています。代表銘柄「箕輪門」は、多くの品評会での受賞歴を持つ殿堂入り銘柄です。

  • 人気酒造(2007年設立) 「普通酒をつくらない蔵」として、すべての酒を吟醸造り・手仕込みで行っています。代表銘柄「人気一」は、華やかな香りとフルーティーな味わいが特徴。スパークリング日本酒やキャラクターとのコラボ商品など、新しい市場開拓にも力を入れています。

  • 檜物屋酒造店(1874年創業) 地元に密着した酒造りを続ける蔵元で、代表銘柄「千功成」は“地酒中の地酒”と称されるほど地元消費が高い人気酒です。伝統的な槽搾りや袋吊りによる上槽など、手間を惜しまぬ酒造りを今も守り続けています。

地元の祭りとともに息づく地酒文化

二本松の酒文化は、地域の伝統行事と深く結びついています。なかでも毎年10月に開催される「二本松提灯祭り」は、日本三大提灯祭りの一つに数えられ、約300個の提灯を吊るした太鼓台が練り歩く壮麗な秋の祭礼です。この祭りで振る舞われるのが、地元の蔵元の日本酒。中でも檜物屋酒造店の「千功成」は、濃い味付けの郷土料理に合うまろやかな甘口で、祭りの場で好まれる銘柄として知られています。

最近では市によって2022年に「二本松の酒で乾杯条例」が制定され、宴席での最初の一杯は地元の酒で乾杯することが推奨されています。

また、蔵元4社は同じ二本松の酒蔵として連携し、共同イベントやPR活動を通じて、地域ぐるみで地酒の魅力を発信しています。

郷土料理と二本松の酒のマリアージュ

二本松の酒が“地元でよく飲まれる”理由のひとつは、郷土料理との相性の良さにあります。味噌や醤油を使った濃い味付けの料理が多く、煮物や漬物など保存食文化も根づいています。

たとえば「いかにんじん」や「ニシンの山椒漬け」といった郷土料理と合わせると、地酒の甘みや酸味が塩味と調和し、より深い味わいが楽しめます。生酛造りの力強い酒は肉料理や煮込み料理と、吟醸酒の華やかさは酢の物や野菜の小鉢といった繊細な料理と好相性です。

市内の居酒屋や割烹では、こうした郷土料理と地酒のペアリングを楽しめるコースが用意されており、観光客からも高く評価されています。

まとめ

名峰・安達太良山の伏流水、肥沃な土地が育む酒米、そして歴史ある城下町の文化。それらが三位一体となって育まれたのが、二本松の酒文化です。

老舗と革新、伝統と挑戦が共存する四つの蔵元が、それぞれの個性を活かしながら地域の酒を醸し、守り、伝えています。祭りの賑わいにも、日々の食卓にも寄り添う二本松の地酒は、単なる嗜好品ではなく、まさに暮らしの中に息づく文化そのもの。

次に福島を訪れる際は、ぜひこの酒蔵のまち二本松にて、4つの蔵の個性あふれる土地の味わいと文化が詰まった一杯に酔いしれてみてください。


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