
金賞蔵の「晩酌酒」──福島で地元民が愛する普通酒・本醸造5選
日本酒と聞いて、多くの人がまず思い浮かべるのは、大吟醸や純米吟醸などの「特定名称酒」でしょう。確かにそれらは華やかで、コンテストでも目を引く存在です。しかし実際に、地域の人々が日々の晩酌で飲んでいるのは、もっと地に足のついた「普通酒」であることが少なくありません。特に、酒造りが盛んな福島県では、鑑評会で金賞を獲得するような実力派蔵元が、日常酒にも真摯に向き合い、驚くほど高品質な普通酒を造っています。
今回は、福島の名門蔵5蔵──奥の松、末廣、名倉山、国権、あぶくま(玄葉本店)──が手がける、地元で愛される普通酒・本醸造酒のその味わいや造りの背景、上級者にも刺さる魅力を紐解いていきます。
奥の松「金紋」──毎晩飲める吟醸酒を目指して
福島県二本松市に蔵を構える奥の松酒造は、享保元年(1716年)創業の老舗蔵。「金紋」は、そんな奥の松が「毎晩飲める吟醸酒」をコンセプトに仕込んだ普通酒です。
香りは穏やかで品があり、味わいはまろやかで温もりのある旨みが特徴。冷やでも燗でも楽しめますが、特に常温からぬる燗での調和が秀逸です。
精米歩合70%、アルコール度数15度、日本酒度はややマイナスというバランスのとれたスペックで、糖類無添加のすっきりとした仕上がり。吟醸酒の技術が注ぎ込まれているため、普通酒ながら飲み飽きせず、食中酒としても、どのジャンルの食事にも合う晩酌酒としてポテンシャルが高い日本酒です。
福島県内のスーパーや酒店では日常的に見かける銘柄で、1.8Lで1,700円前後と価格も良心的。「ワインが嫉妬する日本酒」を目指す蔵元の哲学が、晩酌酒という形で結実した1本です。
末廣「会津印 末廣」──嘉永以来の“大衆酒造り”を今に伝える
嘉永3年(1850年)創業の末廣酒造(会津若松市)は、山廃仕込みなど伝統技術に定評のある蔵元です。「会津印 末廣」は、その末廣が地元に根付いて造り続ける普通酒です。
味わいは三味(甘・酸・苦)のバランスが良く、冷から燗まで温度帯を選ばず楽しめる懐の深さが魅力。特にぬる燗では、ふくよかな甘みと旨味が花開きます。糖類無添加で精米歩合も65%前後と推定され、上質な味わいを実現しています。
地元では「とりあえず末廣」と言われるほど愛されており、冠婚葬祭から日々の晩酌まで幅広く親しまれています。1.8Lで2,000円弱と手頃で、通販でも比較的入手しやすい点も嬉しいポイントです。
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名倉山「会津印 名倉山」──高精白が生む上質な晩酌酒
会津若松市の名倉山酒造は、13年連続で全国新酒鑑評会金賞を受賞する実力派蔵。「会津印 名倉山」は、そんな蔵が造る上撰クラスの普通酒です。
クセのないまろやかな味わいと、温度帯によって異なる表情が魅力。冷やせばスッキリ、燗ではふくよかさが引き立ちます。特筆すべきは、普通酒でも精米歩合65%を維持するこだわり。これにより雑味の少ない、クリアで優しい味わいに仕上がっています。
地元では「いつもの晩酌酒」として定番の存在で、1.8Lで1,980円と手に取りやすい価格設定。上級者にも「ブラインドで飲むと吟醸と遜色なし」と高く評価されています。
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国権「本醸造」──特定名称酒のみ製造の蔵が放つ晩酌酒
南会津町の国権酒造は、全量を特定名称酒で仕込む希有な蔵元。「本醸造」が同蔵の最もリーズナブルな酒であり、実質的な晩酌酒としての役割を担います。
味わいは米の旨味を感じるふくよか系。冷やでも燗でもおいしく、食事に寄り添う万能タイプです。精米歩合は60%と、純米吟醸並み。本醸造ですので糖類は無添加はもちろん、雑味なく、すっきりとした後口が特徴です。
福島県内では定番の晩酌酒として広く親しまれていますが、生産量は少なめで、県外では入手困難。1.8Lで2,200円前後と価格も良心的で、知る人ぞ知る「通好みの一杯」と言えるでしょう。
あぶくま(玄葉本店)「本醸造」──小さな蔵が生む温もりの晩酌酒
田村市にある玄葉本店は、家族経営に近い小規模蔵でありながら高品質な酒造りを続けています。「あぶくま 本醸造」は、そんな蔵のレギュラー商品で、地元での晩酌用として親しまれています。
味はやや辛口で、軽やかなキレと柔らかな旨味が共存。冷やでも燗でも楽しめ、特に生貯蔵タイプでは爽やかさが際立ちます。精米歩合は麹米65%、掛米70%と丁寧に磨かれ、こちらも本醸造なので糖類無添加。すっきりとした味わいと手作りならではの温もりが同居する逸品です。
流通量は少なく、基本的に地元で消費されるため、県外での入手は困難。価格は1.8Lで2,000円弱とリーズナブルで、まさに知る人ぞ知る「地元酒」と言えます。
普通酒という“通の選択肢”
福島の金賞常連蔵が手がける普通酒や本醸造酒は、どれも日常酒というカテゴリを超えた高品質なものばかり。地元で長年愛されてきた理由は、単なる価格の安さではなく、「飽きずに飲み続けられる旨さ」にあります。
香りや華やかさを競う吟醸酒と異なり、普通酒には“素朴さの中の奥深さ”があります。燗で心を温め、常温でじっくり味わう──そんな楽しみ方ができるのも、普通酒ならではの魅力です。
日本酒に慣れた上級者の方こそ、あえて肩の力を抜いて飲める晩酌酒に立ち返ってみてはいかがでしょうか。福島の地元愛飲酒たちは、きっとあなたの新しい「定番」を見つけてくれるはずです。