伝統をつなぎ、挑戦を重ねる酒蔵へ─千駒酒造が描く“次の一歩”
福島県白河市に蔵を構える千駒酒造は、大正時代の創業から続く長い歴史を持ちながらも、常に時代の変化に応じて柔軟に進化を続けてきた酒蔵です。
一般的な家族経営の蔵とは異なり、会社組織として運営されている点もユニークな特徴のひとつ。伝統を大切にしながらも、組織的なチームワークと風通しのよさを活かし、社員一人ひとりが高い意識を持って、品質の向上と革新に取り組んでいます。
現体制となったのは、東日本大震災の翌年。異業種出身の現社長が就任したことで、蔵に新たな風が吹き込みました。変化を恐れずに挑戦を続けるその姿勢が、酒づくりの現場にも少しずつ浸透していきます。
全国新酒鑑評会などでの受賞を重ね、日本酒の品質面でも一層評価が高まっていく中、千駒酒造ではその一方で、従来の日本酒の枠を越えた取り組みにも果敢に挑戦しています。
プレミアム梅酒の開発や、発酵食品を活かした“腸活調味料”といった新商品づくりを通じて、蔵全体が「地域に愛され、次の時代へつながる酒蔵」を目指し、日々歩みを進めています。
社長と杜氏が牽引する「挑戦する蔵」の文化
「やってみよう。失敗したら俺が責任を取る」
この社長の言葉は、今や千駒酒造の文化そのものを象徴しています。社員には頭で考えるだけでなく、まず行動することを求め、「挑戦こそが成長の源」と背中を押します。
技術面の要である杜氏とは、立場を超えた信頼関係を築いており、ときには酒蔵の常識を覆すような大胆な提案にも、互いに向き合いながら取り組んできました。
常識破りの“プレミアム梅酒”誕生
「一番いい大吟醸に梅を漬けてみよう」
そんな社長のひと言に、杜氏は驚きを隠せませんでした。繊細に仕込んだ高級酒に果実を漬けるという発想は、職人としての感覚では到底受け入れがたいものでした。
しかし、社長は「全部買い取るから、まずはやってみよう」と力強く背中を押します。杜氏はその覚悟に心を動かされ、試作が始まりました。
こうして誕生した大吟醸仕込みの梅酒は、全国の梅酒コンテストで受賞を果たします。「やってみたからこそ得られた成果」として、蔵全体に自信と誇りをもたらす一本となりました。

北海道米で金賞を─ご縁から生まれた“恩返しの酒造り”
東日本大震災の影響で酒米の調達が難しくなった時、千駒酒造を支えてくれたのが、ホクレン農業協同組合を始めとする皆さんでした。これまで使用していた酒米が手に入らない中、「なんとか良い米を届けたい」という想いで、あたたかく手を差し伸べてくれたのです。
「このご縁を一過性のものにせず、恩返しとしてかたちにしたい」
そんな社長の想いから始まったのが、「北海道の酒米で金賞を取る」という新たな挑戦でした。吟風、彗星、きたしずくといった北海道米は、当時の東北地域ではまだ使用例が少なく、醸造データもほとんど存在しませんでした。

当時を振り返り、静かに語る杜氏・菊地さん
杜氏は、これらの酒米の特性を一から把握するために、自らの舌と感覚を頼りに、数年がかりで試験醸造を繰り返します。仕込み温度、水分量、吸水具合、酵母との相性──すべてを地道に記録し、調整しながら、理想の味を追い求めていきました。
切り替え当初は、「味が変わった」「以前のほうが良かった」といった声も少なくありませんでした。それでも、杜氏は妥協せずに手を抜かず、挑戦を続けます。その努力はやがて実を結び、北海道産の酒米を使用した酒で、全国の鑑評会において金賞を受賞するまでに至りました。
現在も、当時からお世話になっている北海道の米農家との関係は続いています。単なる仕入先と買い手という関係ではなく、「一緒に日本酒を育てるパートナー」としての信頼が築かれているのです。
腸活をもっと身近に─発酵調味料「kasukuubee」の誕生
千駒酒造の挑戦は、日本酒造りにとどまりません。2025年10月には、発酵食品を通じて日常の健康をサポートする新ブランド「kasukuubee(かすくうべぇ)」を立ち上げました。

きっかけは、蔵で日常的に食べていた“まかない料理”にあります。社員が酒粕を使って手づくりする料理の味に、社長が思わず「これ、商品にできるんじゃないか」とひと言。こうして、“腸活”をキーワードにした新たな挑戦が始まりました。
使用する酒粕は、日本酒を搾ったあとの副産物ですが、その味わいは決して“余り物”ではありません。杜氏が丁寧に醸す美味しい日本酒から生まれる酒粕。旨みや香りが豊かで、素材としての魅力にも優れています。まさに「良い酒があるから、良い酒粕ができる」のです。
「kasukuubee」の始まりは、その酒粕に地元・白河の味噌や醤油を掛け合わせた発酵調味料シリーズです。ドレッシングと味噌の2種類を展開しており、酒粕に含まれる食物繊維や酵母由来の栄養成分が、腸内環境の改善や美肌づくりなどの健康効果をサポートしてくれます。
毎日の料理に手軽に取り入れられる“おいしい腸活”。千駒酒造ならではの発酵技術と素材へのこだわりが詰まった、体にもやさしい調味料です
kasukuubee 酒粕ドレッシング
「kasukuubee 酒粕ドレッシング」は、千駒酒造の“酒粕”に、地元・白河で愛される味噌(根田味噌)と醤油(ヤマボシ醤油)をブレンドした、コク深い発酵調味料です。さらに玉ねぎ、米酢、にんにく、マスタードなどを加えることで、まろやかさとほんのりスパイシーなアクセントを両立させています。
サラダやしゃぶしゃぶ、揚げ物のソースに使えるのはもちろん、意外なアレンジとしておすすめしたいのが「酒粕カルボナーラ」。チーズを使わなくても、ドレッシングの濃厚な旨味ととろみが、まるでチーズのような風味を演出してくれます。実際に千駒酒造のスタッフが試して「チーズなしでも驚くほど美味しかった」と太鼓判を押す一品です。

kasukuubee 酒粕みそ
酒粕に米味噌と天然のだし素材をブレンドした濃厚味噌ペースト。湯を注ぐだけで味噌汁に、肉や魚の粕漬け風レシピにも、焼きおにぎりの味噌だれにも使える万能調味料です。
手作り・少量生産のため在庫は限定的ですが、「手間ひまかけた商品を届けたい」というスタッフの思いが込められています。

技術に裏打ちされた受賞歴─挑戦を支える確かな実力
千駒酒造の挑戦を支えているのは、積み重ねてきた技術と信頼です。全国新酒鑑評会では令和4酒造年度に「千駒 大吟醸」が金賞を受賞し、4年連続の快挙を達成。この鑑評会は日本酒業界でもっとも権威あるコンクールであり、その中で安定して結果を出していることは、蔵の技術力を物語っています。
また、令和7年の福島県春季鑑評会では、純米酒・吟醸酒の両部門で県知事賞を受賞。品質の高さは地元でも確かな評価を受けています。

最後に
伝統を大切にしながらも、変化を恐れず、常に前向きに挑戦を続ける千駒酒造の姿には、芯の強さとしなやかさが感じられます。
丁寧な酒づくりに加え、発酵食品という新たな世界への一歩。そして、「一心」という想いを胸に、同じ方向を見つめて進む社員のみなさんの姿。そのすべては白河の地に根ざしながら、静かに、でも確かな広がりを見せています。
これから千駒酒造がどんな物語を紡いでいくのか、その歩みに、引き続き注目していきたいです。
