
【2025年も躍進必至】福島県の日本酒が全国新酒鑑評会で高評価を得る理由と背景とは?
全国新酒鑑評会とは?日本酒業界での位置づけと歴史
日本酒ファンなら知っておきたい「鑑評会」の役割とは
日本酒の品質評価において、最も権威ある場のひとつが「全国新酒鑑評会」です。明治時代から続くこの鑑評会は、酒類総合研究所と日本酒造組合中央会が共催しており、新酒の完成度を全国的に比較・評価する唯一の全国規模のコンテストです。技術革新や品質向上の指標としても機能しており、日本酒業界全体のレベルアップに貢献しています。
どのように審査される?出品から金賞までの流れ
鑑評会には、全国の酒蔵がその年の新酒を出品します。出品されるのは、主に色味などの外観、香味やバランスに優れた吟醸酒で、すべての審査はブラインドテイスティングで行われます。予審と決審の2回にわたる審査によって評価され、上位の酒が「金賞」を受賞します。
金賞受賞の意義とは?蔵元や流通への影響
金賞の受賞は、その蔵の技術力と品質の証明であり、酒販店や流通業者にとっても仕入れの重要な判断材料となります。また、消費者にとっては信頼できる美味しい酒を選ぶ目印になり、国内外での販路拡大にもつながります。特に県外の日本酒ファンにとっては、金賞受賞の事実が購入の大きな後押しになっています。
“日本酒の神様”と横のつながりが築いた金賞王国
史上初の9回連続で金賞受賞数日本一を達成した福島県の快進撃の陰には、“日本酒の神様”とも称される技術コンサルタント・鈴木賢二氏の存在があります。鈴木氏は福島県ハイテクプラザの会津若松技術支援センターに所属し、1990年代から現在まで約30年以上にわたって県内の酒造会社に技術支援を行ってきました。その豊富な知識と経験に裏打ちされた助言は、単なる指導にとどまらず、各蔵元の現場に寄り添った実践的な改善提案として高く評価されています。
品質を底上げする「福島流吟醸酒製造マニュアル」
特に注目すべきは、鈴木氏が独自に編纂した「福島流吟醸酒製造マニュアル」の存在です。このマニュアルでは、洗米、麹、酒母、醪管理から搾るタイミングやその後の火入れに至るまでの製造手順を踏みながら、数値目標が具体的に設定されていて、作業における注意点も明記されてあります。また、品質を損なう要因となるカビ臭や土蔵臭などについても記されており、蔵ごとの弱点に的確にアプローチできるよう設計されています。
当初は一部の蔵元しか導入していなかったこのマニュアルですが、次第にその有効性が評価され、会津杜氏会の会長の推薦をきっかけに県内各地へと広がっていきました。そして2000年代初頭には、実際にこの技術指導に基づいて仕込まれた酒が全国新酒鑑評会で続々と金賞を受賞するようになり、福島県は金賞常連県としての地位を築くことになります。
杜氏同士が競わず、高め合う「金取り会」
また、福島の酒造界には、他県には見られない“開かれた交流文化”があります。象徴的な事例が「高品質清酒研究会」、通称「金取り会」です。この会では、全国新酒鑑評会での金賞受賞を目指して、県内の蔵元・杜氏が自らの出品酒を持ち寄り、忌憚ない意見交換を行います。味や香りを率直に評価し合うことで、互いの技術向上を促す仕組みが根付いており、技術情報を「門外不出」にしないオープンな交流風土は、福島酒の強さを象徴する文化とも言えます。
人材育成は地域全体で ─ 清酒アカデミーの役割
1992年に設立された福島県清酒アカデミーでは、在職中の蔵人が3年間で醸造の理論と実技を学び、県内の2/3以上の酒蔵で卒業生が杜氏として活躍しています。アカデミーの存在は単なる技術研修の場にとどまらず、若手蔵人たちが世代を越えてネットワークを築くきっかけとなっています。また、酒造組合主催の研修会や外部講師による勉強会も活発に開催されており、業界全体での技術底上げと意識改革が進められています。
原料と技術を“共有”する文化
福島県では酵母や酒米の開発も横断的に進められています。たとえば、「うつくしま夢酵母」は県内の蔵が協力して開発・活用してきた吟醸向け酵母で、香り豊かな酒質に貢献しています。また、酒米「夢の香」や「福乃香」は、行政・研究機関・蔵元が一丸となって10年以上かけて開発した地元の酒米です。こうした取り組みは、酒質の向上だけでなく、地域農業との連携や地域内循環の強化にもつながっています。
福島の名酒はこれだ!金賞常連蔵元と代表銘柄
【廣戸川】松崎酒造|地元米「夢の香」で10回連続金賞
福島県天栄村の松崎酒造が醸す「廣戸川」は、杜氏・松崎祐行氏が2011年度から就任し、以来10回連続で金賞を受賞しています。特に地元産の酒米「夢の香」を使った酒造りで、地産地消と品質の両立を成し遂げた事例として注目されています。
【名倉山】名倉山酒造|13回連続金賞を誇る鑑評会の王者
会津若松市の名倉山酒造は、大吟醸「名倉山 鑑評会出品酒」で13回連続金賞を受賞。五味のバランスに優れ、香り高くキレのある味わいは、多くの審査員をうならせてきました。
【関連記事】名倉山酒造・松本社長インタビュー|地域に根ざす酒造りと広がる展望
【人気一】人気酒造|吟醸酒専門で世界進出も
「吟醸酒しか造らない」という明確な方針のもと、品質を極限まで追求する人気酒造は、スパークリング酒など新たな挑戦でも知られています。海外市場にも積極展開しており、国内外でファンを拡大中です。
【奥の松】奥の松酒造|伝統と革新が融合する実力派蔵
江戸時代から続く奥の松酒造は、伝統を守りながらも、雫取りの大吟醸「十八代伊兵衛」などで革新を続けています。全国新酒鑑評会の常連であり、IWCなどの国際コンクールでも受賞歴があります。
味わいの特徴から見る「福島酒」の魅力
フルーティーでやわらかな香りの秘密は酵母にあり
福島県では「うつくしま夢酵母」など独自開発された酵母を使用した日本酒が多く、バナナやメロンのようなフルーティーな香りが特徴です。酸味は控えめで、口当たりもやわらかく、日本酒初心者にも飲みやすいと評判です。
「夢の香」「福乃香」──地元産米が生む上品な旨味
「夢の香」や「福乃香」といった福島オリジナルの酒米は、吟醸酒に適した心白の発現や雑味の少なさが特徴です。地元の名水と組み合わせることで、上質な味わいの酒が生まれます。
食中酒としてのポテンシャルも高い「香りと旨口」のバランス
福島の日本酒は香りが高く、それでいて穏やかな旨味を感じられる「芳醇旨口」タイプが多く、和食に関わらず洋食や中華とも好相性です。飲み疲れしにくい味わいが、日常使いの食中酒として人気を集めています。
10連覇を逃しても進化は続く — 2025年に向けた福島酒の新たな挑戦
2023年、福島県は全国新酒鑑評会において、惜しくも金賞受賞数日本一の10連覇とはなりませんでした。しかし、その歩みが止まることはなく、県、酒造組合、各蔵元が一体となり、次の目標に向けて着実に取り組みを進めています。
試験醸造プロジェクトの見直しや、蔵元同士による勉強会の開催、外部講師を招いたセミナーといった技術支援の充実や、販路拡大に向けた県主導のプロモーション支援の強化、展示会や日本酒イベントへの参加支援といった制度も引き続き活用されています。これらの取り組みは、単に受賞を目指すだけのものではありません。「福島の酒」としてのブランドを長期的に育てていくことを視野に入れて、福島県の酒造業界はこれからも歩みを進めていきます。