福島・塙町から世界へ|奥久慈塙蒸留所が醸す新時代の焼酎

福島・塙町から世界へ|奥久慈塙蒸留所が醸す新時代の焼酎

福島県東白川郡塙町。この町に、地域の想いを背負って再始動した焼酎の蒸留所があります。それが、奥久慈塙蒸留所です。

もともとこの場所では、数十年以上前から鹿児島の薩摩酒造が焼酎を製造していました。町の人々にとっては、“自分たちの焼酎”として親しまれていた存在であり、地元の誇りとして多くの人に愛されてきました。

その後、しばらく製造が途絶えた時期を経て、「もう一度、塙町で焼酎造りを復活させたい」という想いが生まれます。

きっかけは、塙町出身の経営者が震災後、ふるさとを見つめ直し、ふるさとのために何かできないかと考える中で、かつてこの地で造られていた焼酎の話を地元の方達から聞いたことでした。「あの焼酎を、もう一度地元の人たちと共に復活させたい」という想いが強まり、プロジェクトが始動。こうして誕生したのが、奥久慈塙蒸留所です。

「おらが町の焼酎をもう一度」──その願いが、焼酎の香りとともに、この地に再び息づいています。

焼酎の味を支える、塙の硬水

奥久慈塙蒸留所では、焼酎造りにあえて“硬水”を使用しています。焼酎造りでは、設備への負担が少ない軟水を使うのが一般的です。しかし奥久慈塙蒸留所では、塙町の地下から汲み上げる硬水にこだわっています。ミネラルを多く含むこの水が、焼酎にくっきりとした味わいと清らかな後口を生み出しています。

特に力を発揮するのが、長期熟成の場面です。焼酎は熟成によってまろやかになりますが、塙の水で仕込んだ焼酎は、やわらかさの中にも“味の芯”がきちんと残ります。香りも飛びにくく、ベースの旨みがしっかりと持続する、それが、硬水ならではの特長です。

この土地の水があるからこそ生まれる、奥久慈塙蒸留所ならではの味わい。塙の水は、焼酎の個性を形づくる、大切な要素のひとつです。

地元の農家とともに育む、“おらが焼酎”

原料となる大麦の一部は、塙町内で栽培されています。地元の農家の方々は、「自分たちの育てた大麦が焼酎になる」という誇りを胸に、原料づくりから蒸留所での仕込み作業まで、製造の一端を担っています。

「育てるところから、造るところまで──地元の手で」。

そんな想いが形となった、まさに地域と一体となって生まれる焼酎です。
奥久慈塙蒸留所は、地元とともに歩む“おらが焼酎”の新しいかたちを実現しています。

代表銘柄「水まり」に込められた自由な発想

奥久慈塙蒸留所の看板商品である麦焼酎「水まり」は、焼酎の既成概念をくつがえす一本です。柔らかな口当たりと、ふわっと広がる花のような香りが特徴で、従来の“お湯割り”や“水割り”にとどまらず、もっと自由な楽しみ方を提案しています。

たとえば、レモンサワーにしたり、炭酸で割ったりと、アレンジはさまざま。実際にイベントでは、焼酎に馴染みのなかった若い女性が「水まりサワー」を5杯もおかわりするほど好評でした。

固定観念にとらわれない“フリースタイル焼酎”は、世代やジャンルの垣根を越え、新しい焼酎ファンを生み出しています。

技と人が織りなす、丁寧な焼酎造り

「水まり」は、奇をてらわず、実直な酒造りから生まれます。白麹を用いた二段仕込みで、もろみは約14日間かけてじっくりと発酵。さらに、香りを逃さぬよう、減圧蒸留で丁寧に仕上げています。

仕込みは、製造責任者を中心とした少数精鋭のチームによって行われており、原料の選定から麹づくり、発酵管理、蒸留、濾過に至るまで、すべての工程に時間と手間を惜しまず向き合っています。

濾過は必要最低限にとどめ、硬水と原料の個性をそのまま活かすのも、蒸留所のこだわりです。

自動化された設備の精度と、職人たちの繊細な技と感覚を組み合わせることで、香りや味わいの“生きた部分”を丁寧に残す──それが奥久慈塙蒸留所の焼酎造りのスタイルです。

海外へ──塙町発の焼酎が世界に評価される時代へ

奥久慈塙蒸留所の焼酎は、国内外の品評会で着実に評価を高めています。代表銘柄「水まり(MIZUMARI)」は、スペインで開催された国際コンクール「CINVE 2025」にて最高金賞(Gran Oro)を受賞。さらに同年、「燈まり(HIMARI)」も金賞(Oro)に輝き、ヨーロッパでも異例の快挙を達成しました。

また、世界的に権威ある「インターナショナル・ワイン&スピリッツ・コンペティション(IWSC)2025」では、「水まり」と「燈まり」の両銘柄が銀メダルを獲得。東北の小さな蒸留所が、世界の舞台でも確かな存在感を示しています。

国内でも、「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)」において、「水まり」が2023年・2025年と2年連続で銀賞を受賞。2025年には新たに登場した「はなわ燈まり」が焼酎部門の最高位・最高金賞(Best of the Best相当)を受賞し、プレミアム焼酎として大きな注目を集めました。

設立から間もない蒸留所ながら、こうした受賞歴の数々が品質の高さを物語っています。蒸留所では「塙町の恵みに真摯に向き合い、品質本位の焼酎造りを続けてきた成果」と語り、地域に根ざした丁寧なものづくりの姿勢が評価につながったとしています。

最後に──「焼酎らしくない焼酎」が生み出す未来

奥久慈塙蒸留所が目指しているのは、「焼酎らしくない焼酎」です。地元の素材と水、香りや味わい、そして自由な飲み方──そのどれもが、従来のイメージにとらわれない、新しい焼酎のかたちを描いています。

その背景には、地域への確かな思いと、丁寧な手仕事があります。つくり手の姿勢が静かに伝わってくる焼酎です。

「塙から世界へ」。

その挑戦は、まだ始まったばかり。けれど、この一杯に触れたとき、きっとその未来を応援したくなる。そんな焼酎です。

奥久慈塙蒸留所
住所
〒963-5537 福島県東白川郡塙町大字板庭字原木沢三十二番地
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