福島・川内村から世界へ──naturadistill 川内村蒸溜所が手がけるこだわりのジンとは

福島・川内村から世界へ──naturadistill 川内村蒸溜所が手がけるこだわりのジンとは

出会いの地・川内村で芽生えた思い

福島県・川内村。山あいの静かな村に、ひとつのクラフトジン蒸溜所があります。蒸溜所を立ち上げた大島さんがこの地と出会ったのは、大学1年のフィールドワークの時でした。地域の課題と魅力に触れる2週間の滞在が、大島さんの人生の分岐点となりました。

その後、世界を旅し、様々な地域に身を置くなかでも、大島さんの心には川内村の記憶が残り続けていました。外から来た若者を快く受け入れ、時に並走者として、挑戦を温かく見守る村の大人たちの存在。川内村のそうした空気が、「この土地で、何かを生み出したい」という大島さんの思いを強く後押ししたといいます。

土地とともにあるジンづくり

大島さんは、最初からジンを作ろうと思っていたわけではありませんでした。ただ、「この土地を表すプロダクトを作りたい」という気持ちは、最初から心の中にあったと言います。川内村が持つ自然の豊かさ、特に水の清らかさは、その思いをかたちにするための大きな鍵となりました。

福島県内で唯一、水道が整備されていない川内村では、すべての家庭が地下水を使って生活しています。標高の高い森に抱かれた地形と、水に恵まれた環境は、酒づくりにおいても稀有な条件を備えています。
そしてもう一つ、大島さんたちが目を向けたのが「日本に昔から育つ植物たち」でした。香りが良いのにあまり知られていない。そんな植物たちに焦点を当て、ボタニカルとして取り入れることにしたのです。

忘れられた香りを、ジンという器で伝える

ジンの主な香りづけに使われる植物を「ボタニカル」と呼びます。一般的には柚子や山椒、茶葉などが知られていますが、大島さんたちは、文献を読み解きながら、日本各地に自生する、知る人ぞ知る香りを探し出しました。「この島国だからこそ育った種」に物語性を感じたからです。

たとえば、主軸に据えるのは「カヤの実」。樹齢300~400年という古木から採れるその実は、青っぽい柑橘のような、森を感じる爽やかな香りをもたらします。他にも、古代から伝わる柑橘「タチバナ」、清涼感をもつ「クロモジ」や「ニオイコブシ」など、日本の山林が育んできた植物たちを組み合わせ、一本のジンに丁寧に仕上げています。

これらの香りには、派手さや刺激はありません。けれど、口に含むとすっと身体に馴染むような、どこか懐かしい感覚を呼び起こす。そんな繊細な香りを引き出すために、製法にも工夫が凝らされています。

蒸溜に宿る、静かな情熱

この蒸溜所のジンづくりでは、すべての植物を「単体で」蒸溜します。つまり、一般的な製法のように一括で煮出すのではなく、植物ごとに適した温度・タイミングで丁寧に抽出していくのです。

低温でも沸騰させられる「減圧蒸溜」という技術を使えば、香りが飛びやすい花や葉も、美しいまま抽出が可能です。タチバナのような柑橘系は低温で、ベリー系の香りはやや高温で、植物ごとに異なる個性を見極めながら、植物本来の繊細な香りを引き出します。

抽出した原酒は、ブレンドの際に再び人の感性に委ねられます。朝のフレッシュな感覚を頼りに、数滴ずつの調整を重ね、一本のジンに仕上げていく。こうした手間暇のかかる製法には約2ヶ月を要し、「時間がかかっても、納得のいく香りと味を引き出すことを大切にする」クラフト精神が詰まっています。

飲み方の自由さが生む、新しい発見

この蒸溜所でつくられるジンは、ジンに馴染みのない方から愛好家まで、幅広い方に楽しんでいただけるよう設計されています。ジンソーダやジントニック、緑茶割りといった飲み方では香りの広がりを存分に感じられ、また、ストレートでじっくり味わいたいという方にも応える、奥行きのある複雑さを備えています。

また気軽に食中酒として楽しむこともできるのが魅力です。スパイスを効かせた料理や、出汁を使った和食との相性も良く、食卓に新しい風を吹き込んでいます。

蒸溜所から始まる、村の未来の構想

ジンづくりを起点に、川内村の魅力をもっと多くの人に伝えたい。そんな思いから、蒸溜所の周辺ではさまざまなプロジェクトが動き始めています。蒸溜所見学やブレンド体験ができる体験施設、目の前で蒸溜する様子を見ながら料理と合わせて楽しめるレストランバーなどの構想も進行中です。

また、大島さんの地元・宇都宮に直営の拠点を設ける計画もあります。ここでは、気軽に立ち寄れるカフェのような空間で、ジンの世界観に触れたり、ここでしか飲めない特別な1杯を楽しむことができるようになります。その先にある「わざわざ行きたくなる川内村」へと人を誘う、“入り口”のような役割を果たしていきたいと考えています。

小さな村から、世界へ

「この自然豊かな場所をどう残していくか」そう語る大島さんの言葉には、クラフトジンという飲み物を超えて、川内村という場所を次の世代へどう残していくかというテーマを真剣に考えている姿勢が伝わってきます。

1本のジンには、植物の香りや川内村の水の清らかさ、そして造り手たちの丁寧な手仕事が詰まっています。そうした要素がひとつになって、静かにこの地の魅力を伝えてくれます。今、そのジンが福島の小さな村から、少しずつ外の世界へと広がろうとしています。

naturadistill川内村蒸溜所
住所
〒979-1201 福島県双葉郡川内村大字上川内字町分396-2
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