
循環型社会を目指すクラフトビール ホップジャパンの挑戦と魅力
循環をコンセプトに掲げたビール会社「ホップジャパン」
福島県田村市都路町に拠点を構えるクラフトビールメーカー「ホップジャパン」は、美味しいビール造りにとどまらず、地域社会との深いつながりを大切にした活動を展開しています。
彼らが掲げるコンセプトは、「クラフトビール」を中心に据えながら、大量生産・大量消費・大量廃棄という現代社会のあり方に問いを投げかけること。そして、人々が「資源を大切にする暮らし」へと立ち戻るきっかけをつくることです。
ホップジャパンは、「人・もの・ことをつなぎ、人々を笑顔にすること」を使命とし、「循環」をキーワードに持続可能な未来の創造を目指しています。その理念は、原材料の選定から醸造、販売方法に至るまで、ビール造りのあらゆるプロセスに息づいています。
麦芽粕も資源に。ビール造りに宿る「循環」の哲学
クラフトビールの製造では、モルト(麦芽)を煮出して麦汁を抽出しますが、この工程で残る“麦芽粕”は通常産業廃棄物として処理されます。しかし、ホップジャパンではこの副産物を畑の肥料として再利用し、地域でのホップや他農作物の栽培に活かしています。
この『循環』は、製造と農業の連携がもたらす持続可能な取り組みの一端を示しています。消費される一杯のビールの背景に、環境負荷を最小限に抑えようとする努力が込められているのです。
ホップを自社で育てる──クラフトビール界でも希少な存在
クラフトビールに欠かせないホップ。香りと苦味の決め手となるこの原料を、ホップジャパンでは自社で栽培しています。春に芽を出し、夏には最大10メートル以上まで成長し、8月に収穫。収穫されたホップは鮮度を保つためにすぐに脱気・冷凍され、必要に応じて粉砕されます。
自社栽培ホップを100%使用している商品「Abukuma GREEN」や「Abukuma CRYSTAL」は、ホップジャパンならではの特徴をストレートに味わえる商品です。
「Abukuma FRESH」は、その年に収穫したばかりのフレッシュホップを使って仕込む限定ビールで、「インターナショナルビアカップ」のフレッシュホップ部門で受賞歴もある実力派です。通年でフレッシュホップを使用するブルワリーは国内でも非常に珍しく、その技術力は業界内でも高く評価されています。この高い技術力が結実し、インターナショナルビアカップ2024では「Abukuma FRESH SAISON」が有力ブルワリーが競う激戦のフレッシュホップビール部門において見事金賞に輝きました。
商品ラインアップとその個性を深掘り
ホップジャパンでは定番商品7種、季節限定商品を含めると年間で約20種類のビールを展開しています。今回は定番商品7種について、それぞれの特徴をご紹介します。
HOPJAPN IPA
クラフトビールの王道ともいえるIPAスタイルですが、ホップジャパンのIPAは苦味が控えめで非常に飲みやすい仕上がり。ボディもしっかりしており、ビールに慣れていない人でも「これなら飲める」と感じる優しい設計です。
HOPJAPAN White
ホップジャパン入門者におすすめしたい、フルーティで優しいテイストのホワイトエール。苦味を極力抑えており、ビールが苦手という方にも受け入れられやすい一品です。IPAと並び、出荷量も多く人気の定番です。
Abukuma GREEN
自社栽培のフレッシュホップを100%使用したエールタイプ。ホップの爽快な香りと苦味が特徴で、ビールファンに根強い人気があります。アロマの広がりとともに感じる草木のような清涼感は、まさに“飲む森林浴”といった趣です。
Abukuma RED
アルコール度数7%の力強いRed Rye IPA。赤ライ麦を使い、モルトのコクとライ麦由来のスパイシーな風味が特徴です。田村市産チヌークホップによるグレープフルーツや松のアロマも楽しめ、甘みと苦味が滑らかに調和した飲みごたえある一本です。
Abukuma BLACK
IPAスタイルの黒ビール。ロースト香とホップの華やかな香りが絶妙な調和を実現しています。直営店舗のスタッフの中でも人気の通好みの逸品です。
Abukuma GOLD
「ヘイジーペールエール」というスタイルで、濁りのある見た目としっかりした口当たりが魅力。リピーターが多く、直営店舗でも非常に早く売り切れることが多い人気商品です。ホップの旨味を強く感じさせながらも、渋さや重さを感じさせない絶妙なバランスが支持されています。
Abukuma CRYSTAL
定番の中では唯一のラガータイプで、非常にクリアですっきりとした味わいが特徴。食事と合わせやすく、暑い日にもぴったりです。
地域とつながる拠点としての直営店舗展開
自社クラフトビールの魅力をより多くの人に体験してもらうため、都市部への店舗展開も進めています。2023年にはJRいわき駅ビル内に「TapRoomいわき」をオープンし、田村市産ホップを使用したビールをカジュアルに楽しめる空間を提供しています。
駅直結という立地から、通勤客や観光客が気軽に立ち寄れるスポットとして好評で、季節限定ビールや軽食とのペアリングも楽しめます。ここは単なる飲食店ではなく、浜通りと中通りをつなぐ情報発信拠点として、地域の循環型農業や環境活動の魅力も伝える役割を担っています。
さらに2024年にはJR郡山駅近くに「Beer Restaurant 郡山」を開業。こちらは初の本格レストラン業態として、クラフトビールと福島の豊かな食材を融合させたペアリング体験を提供する場です。
地元産の野菜や肉、発酵食品などをふんだんに使ったメニューとともに、ホップジャパンの定番ビールや季節限定ビールが楽しめるこの店舗は、都市部における"福島を味わう"拠点として機能しています。また、ミード(蜂蜜酒)をグラス1杯から提供しており、ミードとのユニークなペアリング体験も楽しめるのは郡山店ならではの魅力です。さらに、試飲イベントやブルワリートークなども開催されており、「人・もの・ことをつなぐ」企業理念を体感できる交流の場にもなっています。
最後に
ホップジャパンは、ビールを通じて社会課題に向き合う、唯一無二のクラフトビール醸造所です。単なるビールの製造にとどまらず、自社栽培のホップをはじめとする地域資源の活用、環境への配慮、人と人とのつながりの創出など、多面的な価値を生み出しています。
こうした取り組みのすべてが、ホップジャパンを“ただのビールメーカー”ではなく、“地域の未来をつくる企業”と言える存在にしています。循環型社会の実現に向けて、クラフトビールの新たなあり方を体現する存在として、今後さらに注目を集めていくことでしょう。