
福島の“幻の地酒”3選|地元消費9割以上の幻の普通酒を紹介
福島県には、地元の人々に深く愛され、県外にはほとんど出回らない本当の地酒があります。今回はその中でも、特に地元消費率が高く、福島の風土や文化と結びついた3つの銘柄「会津吉の川」「会津栄川」「千功成」をご紹介します。華やかな吟醸酒とは異なる、日常の食卓に寄り添う味わいが魅力の“ザ・地酒”たちです。
会津吉の川:喜多方が誇る幻の晩酌酒
福島県喜多方市にある「吉の川酒造店」は、明治3年創業の家族経営の小さな蔵元です。「会津吉の川」はその看板商品で、会津らしいラベルデザインも印象的です。
吉の川は普通酒でありながら、酒造好適米の五百万石や華吹雪を使い、協会7号酵母で丁寧に仕込まれています。味わいはほんのり乳酸系の香りを伴った厚みのある旨口。冷やしても燗にしても楽しめる懐の深い一本で、特に食中酒として優れた存在感を発揮します。会津名物の馬刺しとの相性も抜群です。
地元喜多方での消費率は驚異の約98%。県外ではほとんど流通しておらず、まさに幻の酒といわれています。市内のスーパーや酒店では定番商品として親しまれ、晩酌用として家庭でも居酒屋でも「とりあえず吉の川」が合言葉のように浸透しています。
「派手さはないが安心して飲める」「雑味がなく、旨みとキレのバランスが絶妙」といった声が寄せられ、地元では年代を問わず長年愛されてきたお酒です。
会津栄川:西会津に根差すもう1つの栄川
「会津栄川(あいづさかえがわ)」は、福島県耶麻郡西会津町にある栄川酒造合資会社が手がける地酒です。文化4年(1807年)創業という長い歴史を持ち、初代は大坂夏の陣の後、大阪から落ち延びたという逸話も残る老舗酒蔵です。
代表的な本醸造酒「ちどりあし」は、地元産米と飯豊山系の清らかな水で仕込まれた、コクのある濃厚な味わいが魅力。甘辛のバランスが良く、普段使いの晩酌酒としても最適です。全体的に香りよりも米の旨味を重視した味づくりで、「正統派の味」「期待以上に旨い」と評されています。
こちらもまた地元密着型の酒で、生産量の8〜9割が西会津町内で消費されると言われています。同じ「榮川」の銘柄を名乗る蔵が磐梯町にもありますが、西会津の会津栄川は地元専用で県外流通は極めて限定的です。
雪深い西会津では、囲炉裏を囲んで熱燗の栄川を酌み交わす晩酌文化が今も息づいています。「父や祖父も栄川だった」「これが無いと晩酌が始まらない」と語る地元民も多く、まさに生活に根ざし、愛されている酒です。
千功成:二本松提灯祭りとともにある縁起の酒
「千功成(せんこうなり)」は、二本松市にある檜物屋酒造店が醸す、まさに“地酒中の地酒”です。明治7年創業、旧二本松藩主ゆかりの蔵として知られています。酒名には「千の功績が成る」という意味が込められ、豊臣秀吉の千成瓢箪にちなむ縁起の良さも特徴です。
代表銘柄「千功成 金瓢」は、ほんのり甘口で柔らかな旨味とキレが同居する濃醇旨口タイプ。クラシックな日本酒らしい風味が広がり、燗でも冷でも楽しめる酒質が魅力です。「THE日本酒」と呼びたくなるような、米本来の味わいがしっかりと感じられます。
千功成は主に旧安達郡内で流通し、地元外ではほとんど見かけることがありません。市内の居酒屋やスーパーでは定番の存在で、720mlで800円台という手頃さも魅力のひとつです。最近では一部オンライン販売にも対応していますが、やはり現地で手に入れるのが確実です。
毎年10月の「二本松提灯祭り」では、千功成が欠かせない存在です。太鼓台を担ぐ若衆が休憩中に飲む酒として親しまれ、「この酒を飲むと祭りを思い出す」という声もネット上で聞かれます。祝いの席では樽酒が使われることもあり、名前の通り縁起の酒としても重宝されています。
地元では「とことん酔いたい夜には千功成」「フルーティーじゃない、これぞ日本酒」と評され、幅広い世代に支持されています。
派手さよりも地に足ついた“旨さ”を
今回ご紹介した「会津吉の川」「会津栄川」「千功成」は、いずれも県外流通が少なく、地元に深く根付いた、普段着のような日本酒です。地元の人々に長年親しまれ、地域の食文化や行事と結びついた味わいは、決して派手ではありませんが、確かな旨さと安心感があります。ぜひ一度、福島が誇る“ザ・地酒”を味わっていただけたらと思います。