福島・三春酒造の酒蔵見学レポート|杜氏に聞いた三春の水と日本酒づくり
福島県田村郡三春町にある三春酒造を訪れ、酒づくりの現場を見学してきました。
三春町といえば、滝桜で知られる歴史ある町です。城下町としての面影を残しながら、町のあちこちに豊かな自然が広がっています。今回訪れた三春酒造では、この土地ならではの水を生かしながら、昔ながらの道具と現代の設備を組み合わせた酒づくりが行われていました。
普段、私たちは店頭でお酒を扱い、お客様に商品をご案内しています。しかし、実際に蔵の中を歩き、仕込みの現場や道具、造り手の考え方に触れると、一本のお酒を見る目が少し変わります。
今回は、須賀川ガス酒販部のスタッフが三春酒造を見学してきた様子を、蔵で伺ったお話とともに紹介します。
三春の酒づくりを支える、豊かな仕込み水
最初に印象に残ったのは、三春の水についてのお話です。
三春町はすり鉢状の地形で、昔から水が豊富な土地だといいます。町内には、現在は使われていない古井戸も点在しており、地下水に恵まれた環境であることがうかがえます。
酒づくりでは、米と同じくらい水が大切です。三春酒造では、仕込みや洗い物などを含めると、ピーク時には1日に約1万リットルもの水を使うこともあるそうです。それでも水が枯れないという話からも、この土地の水の豊かさが伝わってきます。
三春の水は、会津地方の水に比べるとミネラル分がやや多く、比較的しっかりした水質とのことです。ミネラル分は酵母の働きにも関わるため、発酵が力強く進みやすく、しっかりとした味わいのお酒になりやすいといいます。
一方で、近年は香りが華やかで、後味が軽く、甘みも感じられるお酒が好まれる傾向があります。三春の水が持つ力強さを生かしながら、今の飲み手に寄り添う味わいをどうつくるか。三春酒造の酒づくりには、そうした工夫も重ねられています。
昔ながらの和釜で米を蒸す
蔵の中で目を引いたのが、昔ながらの和釜です。
福島県内でも、現在はボイラーの蒸気で米を蒸す蔵が多いそうですが、三春酒造では今も和釜を使っています。釜の下で湯を沸かし、その蒸気で米を蒸し上げる昔ながらの方法です。
米を蒸す工程は、酒づくりの土台になる大切な作業です。蒸した米は、麹、酒母、もろみの掛け米など、さまざまな用途に使われます。ここでの仕上がりが、その後のお酒の味わいにも大きく関わります。
近年は夏場の気温が高く、米が硬くなりやすい傾向もあるとのことです。そのため、米を水に浸す時間を調整し、水をしっかり吸わせてから蒸し上げるなど、毎年の気候や米の状態を見ながら細かく対応しています。
案内してくださった三春酒造の杜氏からは、「原料処理の段階で、よいお酒になるかどうかの大部分が決まる」というお話もありました。見た目にはシンプルな作業に見えても、その一つひとつに経験と判断が詰まっています。
麹室で感じた、微生物と向き合う酒づくり
次に見学したのが、麹を育てる麹室です。
麹菌はカビの一種です。そのため、麹室は麹菌が育ちやすい温度と湿度に保たれています。真冬でも室内はあたたかく、麹を育てるための特別な空間になっていました。
一方で、麹菌が育ちやすい環境は、ほかの菌も入り込みやすい環境でもあります。蔵では、納豆菌や乳酸菌の持ち込みにとても気をつけているそうです。納豆やぬか漬け、乳酸菌飲料など、私たちにとって身近な食品も、酒づくりの現場では注意が必要になります。
この話を聞くと、酒づくりは「人がすべてを造る」というより、微生物が働きやすい環境を整える仕事でもあることが分かります。米、麹、水、酵母がきちんと力を発揮できるように、蔵人が環境を整えていく。その繊細さが、日本酒づくりの面白さでもあります。
日本酒ならではの発酵の奥深さ
見学の中では、日本酒の発酵についても教えていただきました。
お酒の発酵には糖分が必要ですが、米に含まれているのは主にデンプンです。そのため、日本酒ではまず麹の力でデンプンを糖に変え、その糖を酵母がアルコールに変えていきます。
ワインはブドウそのものに糖分があります。ビールは糖化と発酵を別々の工程で行います。それに対して日本酒は、一つのタンクの中で糖化とアルコール発酵が同時に進んでいきます。
この仕組みは「並行複発酵」と呼ばれ、日本酒ならではの大きな特徴です。言葉だけを聞くと少し難しく感じますが、実際にタンクや道具を見ながら説明を聞くと、日本酒が繊細で複雑な発酵によって造られていることが伝わってきます。
もろみのタンクに込められた緊張感
もろみを仕込むタンクも見学しました。
三春酒造では、高さのある大きなタンクを使って発酵を進めています。発酵中のタンク内では、酵母がアルコールを生み出すと同時に二酸化炭素も発生します。そのため、タンクの中は酸素が少ない状態になり、作業には大きな注意が必要です。
杜氏からは、タンクの中に落ちる危険性や、作業時の注意点についてもお話がありました。酒づくりというと、米を蒸したり、麹を育てたりする穏やかな印象を持つ方もいるかもしれません。しかし実際の現場には、常に緊張感があります。
温度を測る道具や、タンク内の液量を確認する道具など、専用の道具も見せていただきました。感覚だけに頼るのではなく、数字を見ながら細かく管理していく。伝統的な仕事でありながら、とても理にかなった現場です。
搾り、火入れ、検品まで続く丁寧な仕事
もろみの発酵が進んだ後は、搾りの工程に入ります。
三春酒造では、機械を使ってもろみを搾り、液体の清酒と固形の酒粕に分けていきます。搾るタイミングは、日本酒度、アルコール度数、酸度などのバランスを見ながら判断するそうです。数字で確認しながらも、最後は経験による見極めが大切になります。
搾ったお酒は、濾過や割水を経て瓶詰めされます。その後、火入れと呼ばれる加熱殺菌を行います。温度が高すぎるとお酒の味わいが変わってしまい、低すぎると品質が安定しません。微生物を抑えながら、お酒への負担をできるだけ少なくする。そのぎりぎりのところを狙う作業です。
さらに瓶詰め後は、バックライトに当てながら、異物や瓶の傷、汚れがないかを人の目で確認します。一本一本を確認する地道な作業ですが、お客様に安心して届けるためには欠かせない工程です。
店頭に並ぶお酒は、きれいなラベルが貼られた完成品として目に入ります。しかし、その前には、こうした細かな確認作業が積み重なっています。
梅酒や柚子酒にも生きる、清酒蔵ならではのやさしさ
三春酒造では、日本酒だけでなく、梅酒や柚子酒といったリキュールも造られています。
梅酒は、清酒原酒と梅、糖類を使って仕込まれます。日本酒ベースの梅酒は、後味がさっぱりとして、やわらかい印象に仕上がるそうです。
柚子酒は、清酒と柚子果汁、糖類で造られています。柚子の香りと日本酒のやさしい旨みが合わさり、食前酒や食後の一杯としても楽しみやすい味わいになります。
日本酒を飲み慣れていない方にとっても、梅酒や柚子酒は手に取りやすい入口になります。清酒蔵が造るリキュールには、ただ甘いだけではない、やわらかな余韻やすっきりとした後味があります。
「辛口」とは何かを考えるきっかけに
今回の見学で特に印象に残ったのが、「お客様が求める辛口」についてのお話です。
店頭でも「辛口のお酒はありますか」と聞かれることはよくあります。しかし、造り手が考える辛口と、お客様がイメージしている辛口は、必ずしも同じではないそうです。
日本酒度が高いお酒は、一般的には辛口とされます。ただし、実際に飲んだときの印象は、日本酒度だけで決まるわけではありません。酸味や旨み、香り、後味の軽さによって、「辛口に感じる」「すっきり感じる」といった印象は変わります。
一方で、お客様が求めているのは、数値上の辛口ではなく、「後味が軽く、飲み疲れしにくいお酒」であることも多いとのことでした。
三春の水は、しっかりとした味わいのお酒を生みやすい水です。だからこそ、味のバランスをとりながら、飲みやすさや余韻をどう整えるかが大切になります。
この話を聞いて、私たちがお客様にお酒をおすすめするときも、単に「辛口」「甘口」という言葉だけで選ぶのではなく、どんな場面で飲みたいのか、どんな後味が好みなのかを伺うことが大切だと改めて思いました。
おわりに
三春酒造を見学して感じたのは、酒づくりの現場には、想像以上に多くの判断と手間があるということです。
三春の水をどう生かすか。米をどのように扱うか。麹や酵母が働きやすい環境をどう整えるか。搾りや火入れ、検品をどこまで丁寧に行うか。どの工程にも、蔵の考え方と経験が息づいていました。
私たちが普段店頭で扱っている一本のお酒にも、こうした背景があります。味わいだけでなく、その土地の水、蔵人の仕事、受け継がれてきた道具や技術まで知ると、日本酒はもっと楽しくなります。
ふくしま彩り便では、これからも福島の酒蔵や造り手の想いを、商品とあわせてお届けしていきます。
三春の風土が育てる、しっかりとした味わいとやさしい余韻。三春酒造のお酒を手に取る際は、ぜひその背景にも思いを巡らせながら味わってみてください。