飯米で醸す唯一無二の日本酒とは?会津錦・齋藤杜氏が語る酒造りの原点と挑戦【インタビュー】

飯米で醸す唯一無二の日本酒とは?会津錦・齋藤杜氏が語る酒造りの原点と挑戦【インタビュー】

福島県会津地方に、静かに個性を磨きながら酒を醸し続ける会津錦という酒蔵があります。
創業は明治元年(1868年)とされていますが、その起源は江戸時代初期にまで遡るといわれ、地域の歴史とともに歩んできた老舗酒蔵です。
この酒蔵が他の酒蔵と大きく異なるのは、飯米(はんまい)を酒造りに使用していること。つまり普段私たちが食べるお米を使って日本酒を造っていることです。全国的にも珍しいこのスタイルの背景には、酒と食、そして地元とのつながりを大切にする蔵の姿勢がありました。

なぜ飯米なのか──日常に寄り添う味を求めて

かつては酒造好適米を使っていたという会津錦。その考え方が大きく変わるきっかけとなったのは、震災前に仕込んだ「ミルキークイーン」という飯米を使った酒造りでした。
この米で造られた酒は、日本酒度プラス9の辛口ながら、口に含むとまず米の甘みが広がり、後味は驚くほどすっきりしていたといいます。甘さとキレの絶妙なバランス──その味に衝撃を受けたのが、現代表の齋藤さんでした。

「日本人が毎日食べているお米の甘みを活かしたら、それだけで他にはない酒になると思ったんです」

この経験から、会津錦は飯米100%の酒造りへと本格的に舵を切ることになります。

酒米ではなく飯米。だからこその難しさと魅力

現在、同蔵ではすべての酒を飯米で仕込んでいるという、全国的にも珍しいスタイルを確立しています。主に使用しているのは会津産のコシヒカリ。そのほかにも福島県産の天のつぶや、茨城県で開発された高温耐性のあるにじのきらめきなど、品種ごとの特徴を活かしながら造られています。

ただし、飯米は酒造りにおいては扱いが難しい原料です。酒米に比べて粒が小さく、酵素の影響を受けやすいため溶けやすく、吸水や蒸し加減の管理には繊細な技術が必要とされます。

たとえば、一般的な酒米である山田錦が7分ほどで理想的な吸水状態になるのに対し、飯米では10〜12分かかることも。さらに、年によって米の状態も異なるため、毎年が新たな挑戦です。

「米と毎年“対話”していくような感覚ですね。米の硬さや質を見ながら、水加減や時間を細かく調整していきます」

近年の気候変動により、米の品質や収穫量が不安定になっている中でも、同蔵では積み重ねた経験によって飯米の特性を味方につけています。

農家とともに歩む酒づくり

飯米を使うことは、地元農家とのつながりにも大きく関わっています。震災後、取引のあった農家さんから「コシヒカリで酒を造ってもらえないか」と相談されたこともあり、飯米への転換を後押ししました。

「地元のお米で酒を造ることで、農家も、地域も一緒に元気になれたら」
現在では、苗の育成や収穫の手伝いなど、米づくりの現場にも積極的に関わっており、将来的には自社栽培も視野に入れているとのことです。原料づくりから携わることで、品質の安定と地域貢献を同時に実現しようとしています。

「コメ感」ごはんのようにほっとする酒

飯米で造った酒には、「コメ感」とでも呼びたくなるような、やさしくほっとする味わいがあります。米の自然な甘みやふくらみが感じられ、食事との相性も抜群。これこそが、会津錦が目指す「毎日の食卓に寄り添う酒」のかたちです。

「酒だけで楽しむというより、ごはんやおかずと一緒に飲んでもらいたい。そのほうが、もっと酒も美味しくなると思うんです」

華やかな香りやスペックに頼らず、あくまで日常の延長にある日本酒。それが、会津錦の強みであり、個性なのです。

方言シリーズ──地元の言葉に込めた遊び心と誇り

もう一つの特徴が、福島の方言を冠した銘柄シリーズです。第一弾は「こでらんに」。これは、辛口にする酒が甘口になってしまい、その甘口の酒に対し、当時の社長がテレビで聞いた言葉が妙にマッチしていたことから名付けられたものです。

続いて「さすけね」「なじょすんべ」「すっぺたこっぺた」「べろぬけ」など、個性的な名前が並びます。現在は「こでらんに」「さすけね」「なじょすんべ」の3銘柄が主力商品となっています。

「方言なら、地元の人にも親しみを感じてもらえる。名前をきっかけに手に取ってもらえたらうれしいですね」

ユーモラスで温かみのあるネーミングは、地元への誇りと酒づくりへの遊び心がにじむ、会津錦ならではの魅力です。

最後に

普段食べているお米から生まれる日本酒。それは、どこか懐かしく、日々の暮らしに自然と溶け込むやさしさを持っています。飯米での酒造りは手間もコストもかかりますが、それでもあえてその道を選び続けるのは、「自分たちにしかできない酒」を届けたいという信念があるからです。

今回の取材では、代表社員であり杜氏の齋藤さんが終始穏やかな笑顔で、ひとつひとつの質問に丁寧に答えてくださいました。見学させていただいた蔵は、家族で営まれているからこその温かさと、長年積み上げてきた丁寧な仕事がにじむ空間でした。

「毎日飲んでもらえる酒を造りたい」。その言葉どおり、会津錦の日本酒は、華やかさよりもやさしさが残る、そんな一本です。

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